次に訪れたのが、「ヴェストラ・イェータランド県庁」。
対応してくださったのは、副知事と担当官の方です。
お二方とも女性でした。
まず、職員用の喫茶室のようなところに案内され、紅茶をいただき、それから会議室に案内され、副知事自ら「ヴェストラ・イェータランド県庁」について説明をしてくださいました。
(↑3人並んでいる写真の私の左に座っている方が担当官の方で、右側が通訳さんです。・・・撮影者は副知事です。(苦笑))
《県の概要》
ヴェストラ・イェータランド県の人口は、約150万人。
県内には49の市町村があります。
県内最大の都市がヨーテボリ市で、人口が約47万人です。
(ヨーテボリ市のことは、「北欧研修④」に記載。)
県予算が、423億クローネ(2008年度)。1クローネを15円として換算すると、6,345億円となります。
以上より、宮崎県より少し規模が大きいですが、だいたい同程度の県ということが分かります。
(宮崎県・・・県人口:約114万人、「平成の大合併」前の市町村数:44、県庁所在地(宮崎市)人口:約37万人、県予算:約5,700億円)
《医療》
まず、副知事から、県庁が主に取り組んでいるのは、「保健医療(heath care)」と「成長及び発展(growth and development)」の2つの分野であるとの話がありました。
県全体予算の中身を見てみると、その9割が保健医療に使われています。
なので、スウェーデンの県庁の主な役割としては、病院経営などの医療分野であることが分かります。
ヴェストラ・イェータランド県内にある公立の医療施設は、17の総合病院、121の診療所、170の歯科診療所。
(スウェーデンには、私立の医療機関はほとんどありません。)
医療サービスの中身は、地域医療(初期医療)、予防医療、救急医療、高度医療の4つに分類されます。
他には、以下のことを話してくださいました。
・18歳未満の医療費は無料であること。
・大人の医療費も高くないこと。
(個人負担が一定額を超えると支払い不要となる)
・予防医療に力を入れていること。
・6歳までの医療にも力を入れていること。
・待ち時間が長いことが問題点。
《医療以外》
ヴェストラ・イェータランド県では、県立芸術劇場(オペラハウス)の運営などを通して、文化面にも力を入れているとのことでした。
その他に県として取り組んでいる事としては、列車などの交通行政、観光振興、産業振興、美術館運営などが挙げられました。
《県職員》
ヴェストラ・イェータランド県の職員数は5万人を超えます。
そのほとんどが、医師や看護師などの医療スタッフです。
(←↑県庁の建物内にて。この建物は、昔、王室の迎賓館だったそうです。)
《議会》
この「ヴェストラ・イェータランド県」県議会の議員数は149人。
宮崎県議会は45人ですので、人口や予算規模の差を勘案しても、はるかにスウェーデンの地方議会の方が多いことになります。
(地方議員数が非常に多いことについては、私が今回の研修テーマにした「地方分権」と密接に関わる部分なので、あとで論述します。)
また、このスウェーデンの地方議会は課税権を持っています。
そもそも、スウェーデンの地方自治制度は、日本の地方のそれとはかなり違います。
日本では、知事や市町村長(首長)に権限が集中しており、多くのことは首長が決定し、実行します。
日本の地方議会ができることは、法律で限定されていて、執行部に対する質問などしかできません。
このように首長の力が強いタイプは「大統領型」と呼ばれます。
先進国において、地方自治体に「大統領型」を導入している国はあまりありません。
スウェーデンの地方議会は、議院内閣制に近いシステムになっています。
つまり、議会が行政の方針を決め、指揮をします。
日本のように直接選挙で選ばれる首長はいません。
とはいえ、対外的な顔としての首長は必要なので、議長が首長を兼ねます。
また、議会の中には執行委員会と各種の常任委員会があり、執行委員会が行政運営について統括的なポジション(国で言えば「内閣」)となるので、執行委員会の委員長が実質的な首長になります。
先程、「議院内閣制に近いシステム」と書きました。議院内閣制と異なるのは、議院内閣制であれば与党だけで内閣を作りますが、執行委員会は議会の議席数に比例して構成される点です。
《地方分権》
スウェーデンでは、国からの特定補助金を一部の例外を除いて廃止し、代わって包括的補助金が導入されています。
つまり、国から渡されるお金は、国に「このことに使いなさい」と使途を限定されるのではなく、地方で考えて自由に使ってもよいということです。
日本では、国に使途を限定されている、いわゆる「ひも付き補助金」が多くあり、これが霞ヶ関の力の源泉となっています。
地方議会の各常任委員会は、執行機関におけるそれぞれの分野のトップとなり、重要な役割を果たします。
この議会内の委員会をどういうものにするかというのは、どのような地域を目指すのかということにもつながる根幹部分です。
スウェーデンでは1991年法で、執行委員会だけは必置とし、常任委員会等については委員の数を含めて地方自治体の自由に決められるようになりました。
また、前述のとおり、日本と比較すると、スウェーデンの地方議員数は人口に対して非常に多いです。
しかし、議員全員がフルタイムの報酬をもらっているわけではないので、議会にかかる経費が高くなっているわけではありません。
きちんと食べていけるだけの報酬が支払われているフルタイムの議員は一部であり、多くの議員はパートタイムで、他に仕事を持っています。
(スウェーデンの市町村議会では、フルタイムの議員は多くても1割強であり、多くが兼業をしているため、議会の開始時刻も仕事を終えて出てくることのできる夕方からになっています。)
議員の数が多いので、その分、周りに政治家がいる確率が高いことになります。
それにより、住民にとって行政や政治が非常に身近なものになっていて、普通の人が議員(政治家)にしっかりモノが言える空気があるとのことでした。
このことは、日本において大いに議論されるべきことだと思いました。
地方議会に対し、何を求めるのかということです。
単純に議員定数を減らして、経費削減をするというのも分かりますが、議員一人分にかかる経費を減らしても経費削減という目的であれば達成できます。
例えば、「経費削減」と「より多くの住民の声を拾い上げる」という2つの目的を達成するとしても、議員一人分の経費を大幅に減らして、議員定数を少し増やせば、目的達成となります。
しかし、これにより、議員報酬だけでは生活できなくなるので、兼業をしなければならなくなり、議員の専門性は低下するでしょう。
つまり、地方議会に、政策立案能力などについて高いレベルを求めるのならば、議員一人に高い報酬を払うことが必要でしょうし、地域住民の意見をより多く反映することを重視するのならば、議員定数を増やし、報酬を下げればよいと思います。
まずは、「どういう地方議会を目指すのか」を議論することが先なのです。
学校教育は、以前は国の管轄でしたが、今は市町村(コミューン)の管轄であり、警察は、以前は市町村(コミューン)の管轄でしたが、今は国の管轄になったとのことでした。
このことから分かることは、スウェーデンでは、どの分野をどこが管轄するという根幹に関わることについても、非常に柔軟に制度改正しているということです。
ヨーテボリ市役所で、スウェーデンでは投票率が何故高いのかと質問したときに、担当部長が「政府や自治体が変化をもたらしてくれると国民が考えているから投票に行くのだ」と話されたことと繋がる話だと思います。
最後に、民主主義で大事なことは、「情報公開」と「一人一人の住民を大切にする姿勢」であり、この2つは基本条例となっているという話がありました。
行政でも、議会でも、裁判所でも、非常に情報公開が進んでいて、ほとんどの行政資料がインターネットで閲覧することができるそうです。
また、例えば、公立病院を建設する計画があるときには、まず住民に意見を聞くなどして、計画が進み出す前にしっかり議論を行うのだということを盛んにお話しくださいました。
ちゃんと住民と合意形成がなされたものでないと実行に移さないとのことでした。
ということで、「ヴェストラ・イェータランド県庁」編はここまでです。
全ての質疑応答が終了した後、案内された部屋に行くと、食事が準備してありました。
↓ここは、昔、王室迎賓館の応接室だった部屋です。
とっても感激でした。
(ちょっと緊張しています。(苦笑)↓)
お疲れ様です。
常任委員会の話は面白いですね。
この前、スピリチュアルツアーの下見をしていたときに、「自治体によって強み・弱みがあるから、観光には力を入れないっていう自治体が現れて、観光の部局をなくすところとか出てくるんじゃないですかねぇ」という話をしました。(観光のプランを考えている最中だったので、観光の話になったのですが。)
スウェーデンでは常任委員会の数を決めることができて、自治体ごとの特徴をだせることが制度上で担保されてるんですね。
本当の意味での地方分権を実現にするには、「住民自治」ができる地域にせねばと理論展開していこうと思っているところ。(←ネタアカシ)
その中で、地方議会をどういうものにしていくのかというのは重要なところになってくると思います。
「『権限』と『財源』を移譲してからじゃないと地方分権は実現できない」というのはよく言われることで、半分はホントだと思いますが、半分はそうじゃない。
以前は、知事になっても市長になっても、今の日本の地方自治制度ではできることが少ないので、まずは国政に行き、憲法も含め、地方に関する法制度を変えねば本当にやりたいことはできないのではと少し思っていましたが、今回、スウェーデンに行き、真の地方自治を実現するために、まだまだ地域でやらなければならないことは山ほどあると心から思いました。