いよいよ、最後の訪問先である「マルメ市役所」です。
対応してくださったのは、広報部長(女性)と児童養護担当官(男性)のお二人でした。
《市の概要》
マルメ市の人口は、約28万人。
スコーネ県内最大の都市です。
(ちなみに、スコーネ県の人口は約116万人。宮崎県とほぼ同じです。)
マルメ市は、スウェーデンの南部にあり、海を渡ってすぐ隣がデンマークの首都コペンハーゲンになります。
2000年に、コペンハーゲンとマルメを結ぶ橋が架けられ、アクセスが向上しました。
(早朝から深夜まで20分おきに電車が運行されています。所要時間はわずか35分。)
大都市(コペンハーゲン)が近くにあるため経済状況が非常に良く、失業率もマルメ市では3.5%程度とのことでした。(スウェーデン全体の失業率は約5%。)
その他、コペンハーゲンにもマルメにもそれぞれ空港があるなど、交通インフラが整っていることや、外国出身者が多い街であることから、外国人がビジネスしやすい環境にあるというお話しでした。
また、デンマークと比べ、スウェーデンは物価が安く、デンマーク人がマルメによく買い物に来るそうです。
《マルメ・コミューン(市役所)》
市役所の職員数は、約2万人です。
市予算が、500億クローネ。約7,500億円になります。
《医療》
この地域(スコーネ県)では、1回の診療にかかる費用は150クローネ。(土日は300クローネ)
上限は、1,000クローネとのことでした。
前述している通訳の方から聞いた金額とは少し異なっています。
(通訳の方の住所は、ヴェストラ・イェータランド県でした。)
これにより、自治体ごとに医療費の設定が異なることが分かります。
(←児童養護担当官と。)
《児童養護》
この日の訪問先で、主に調査してきたのは「児童養護」についてです。
私のブログに「児童養護施設」という言葉がよく出てきますが、「児童養護施設」とは、虐待や経済的理由などの事情により家庭で生活をすることができない子供を養育する施設のことです。
この分野について、スウェーデンの現状を調査しました。
100年ほど前、スウェーデンは非常に貧しい国で、経済的に家庭で育てられない子供はオークションに出されることもあったそうです。
施設に預けられた場合も、劣悪な環境により、子供が死んでしまうことも度々あったとのこと。
そこで、1924年に児童福祉法が制定されます。
親が子供を私物化して酷使し、虐待することを防止するための法律です。
それ以後、子供の権利を守る法改正や政策実施がなされていきます。
また、スウェーデンは、2度の世界大戦に参戦しなかったことで、戦時中はヨーロッパにおける物資の供給元となり、戦後もヨーロッパの多くが焼け野原となる中、同じく供給元となって、順調に工業が発展していきました。
これが、今日の高福祉国家を支える経済力の礎となったようです。
それでは、歴史については簡単にこのくらいにして、現在の児童養護政策に入ります。
日本では、養護の必要のある子供のほとんどが施設(児童養護施設)で生活しており、里親家庭に預けられている子供は全体の1割にも満たない状況ですが、スウェーデンでは、多くの場合、「養育里親(Foster family)」の元で育てられます。
(スウェーデンも、1950~90年代は施設が多くあったそうです。ただ、Foster familyも昔からスウェーデンにはあったとのこと。)
スウェーデンにおいて、この「養育里親(Foster family)」に預けられる子供の割合は、全体の55%を占めます。
(その他は、「Residential Care」と呼ばれる10人前後で暮らす小規模施設か、子供に問題がある場合に入所する「Homes for special supervision」(児童自立支援施設)になります。)
子供が保護され、養護の必要があるとされたときには、まず、親戚の中で「養育里親(Foster family)」になってくれる家庭がないか探すとのことでした。
ここが、日本と大きく違う点です。
日本でも、親戚に預けられる場合はありますが、日本における制度上の「里親」になることは非常に稀です。つまり通常は、親戚の子供を預かっても、行政からの支援も無く、児童相談所の監督範囲内にもなりません。
スウェーデンでは、親戚であっても「養育里親(Foster family)」として子供を預かれば、行政の監督の下、制度上の支援を受けることになります。
「養育里親(Foster family)」のうち、約45%が親族とのことでした。
日本では、「親族に経済的に余裕があるところがあるなら、そこで当然面倒を見るべき」という考え方が根底にあるのか、親族が養護の必要がある子供を預かっても、基本的に行政からの支援策はありません。
これは、日本とスウェーデンでは家族の考え方が歴史的に違うのもあるでしょうし、このことだけをもって一概に良いとも悪いとも言えませんが、少なくとも、スウェーデンでは、子供の医療費や教育費が無料であることや、児童手当が手厚いことなどからも、「子供は社会全体の共通財産であるから社会全体で支える」という考え方がしっかり根付いているのだと思いました。
また、マルメ市(人口:約28万人)において、直近の1年間での児童虐待数は50件とのことでした。
ちなみに、都城児童相談所管内(人口:約30万人)においては、74件(平成19年度)です。
日本ほどは多くありませんが、マルメ市の担当官は「非常に大きい数字だ」と話されました。
ただ、元々スウェーデンに住んでいるスウェーデン人の家庭では、あまり虐待は起きていないそうです。
移民を多く受け入れている国なので、移住してきた外国人に虐待が多く起きているとのことでした。
(移民の方は、文化はもちろん、子育てやしつけの仕方も違うので、親は普通に叱っているつもりでも、スウェーデン人の感覚では虐待しているように見えてしまい、そういう意味で数が増えてきている部分もあるそうです。)
次の事は、今回の研修中に聞いた話ではないのですが、出発前に読んでいた北欧で子育てをされた日本人女性の本に書いてあったことに、「北欧には虐待を生まない心の余裕がある」というのがありました。
子供を持つ親を助けてくれる様々なシステムがあり、育児ノイローゼにならない環境になっているとのことでした。
確かにスウェーデンの街角を歩いていると、子供と手を繋いで歩いている若いカップルや、乳母車を傍らに置いて、食事やお茶をゆっくり楽しんでいる母親たちを多く見かけました。
日本で見るより、はるか高い確率でした。
これは、電車内の通路が非常に広く、大きな乳母車を押して乗車しても余裕があることなど(実際に電車内でもよく見かけました)、駅やデパートがバリアフリーになっていて、親が子供を外に連れ出しやすい環境が整っていることも大きいと思います。
(←美術館や博物館には必ずと言っていいほど、子供が楽しめる展示物や遊べるコーナーがあったのも驚きでした。)
また、あれだけ普段から子供を目にするというのは、街自体の印象も明るくなりますし、周囲の人も子供に対する思いやりが自然に生まれるように思いました。
このようなことも、「子供は社会全体の共通財産である」と国民の意識を醸成するための一翼を担っているのではないかと感じました。
《その他》
若者や移民の投票率アップのために、ヒップホップで選挙に行くことを呼びかける曲を作り、その曲でテレビCMを作成したことや、美しい景観づくりに力を入れていることなどの説明もありました。
他に、ここでも、「スウェーデン人は日本と同じくあまり子供を産まないが、移住してきた外国人が出生率を引き上げている」という話が出ました。
先日、参加した会議の資料に、日本の
里親制度のことが詳しく出ていました。
帰りの飛行機の中で呼んだのですが、
日本では、里親になっても、養子縁組を
すると、国からの養育費が打ち切られるんですね。
日本でも、スウェーデンのように、
親戚でも国から養育費が出るようになれば、
子どもも、肩身の狭い思いをしなくて
すむのにと思います。
この国の政府は、予算をばらまくことは
できても、問題を解決するために使うことは
できないのでしょうか。
そうですね。
国で多くの物事を決めている限りは、実態に即したことができないのだろうと思います。
なんの分野にしても。
まずは「自立した地方」として、自分たちの事を自分達で決めれる地域力をつけねばと思う最近です。